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東京地方裁判所 昭和53年(ヨ)2265号 決定 1978年9月29日

申請人 野田健太郎

<ほか一七名>

右申請人ら訴訟代理人弁護士 仙谷由人

同 笠井治

同 石田省三郎

同 近藤彰子

被申請人 株式会社イーシーシー

右代表者代表取締役 山口勇

右訴訟代理人弁護士 小室恒

主文

被申請人は申請人らを別紙(二)の「休日の定め一覧表」記載の各休日に就労させてはならず、同表記載の休日をもっても週二日の休日のない週については更に五日をこえて就労させてはならない。

その余の申請人らの申請を却下する。

訴訟費用は被申請人の負担とする。

理由

第一当事者の求める裁判

一  申請人

(一)  申請人らは被申請人に対し、別紙(三)の「休日の定め一覧表」記載の休日を除く日をこえて就労する義務のないことを仮に定める。

(二)  被申請人は申請人らに対し、同表記載の休日に就労させてはならず、申請人らが就労しないことをもって賃金を減額しもしくは懲戒処分等不利益取扱いをしてはならない。

(三)  申請費用は被申請人の負担とする。

二  被申請人

(一)  本件各申請を却下する。

(二)  訴訟費用は申請人の負担とする。

第二当裁判所の判断

一  次の事実は当事者間に争いがない。

(一)  被申請人は、本社を大阪市に置き、「ECC外語学院」なる通称のもとに、主として英会話教授の事業を営む株式会社であり、現在全国に二四の営業所を有し、都内では東京管区本部を中心に池袋校(豊島区西池袋一丁目二九番二号地得ビル所在)、新宿区歌舞伎町五―二二第六荒井ビル所在)、及び渋谷校(渋谷区渋谷二丁目二二番六号三信ビル所在)の三校において営業活動を行なっている。

(二)  申請人らはいずれも被申請人に雇用され、申請人野田、同副田、同花田、同高木、同市川秀幸、同田中、同荒井、同松岡、同堀江は前記新宿校に、同菊地、同高橋文夫は前記池袋校に、同有田、同中村、同桜井、同市川知生、同高橋登美枝、同沢田は前記渋谷校に、同田内は東京管区本部(新宿校と同所在地)にそれぞれ勤務するものであり、かつ被申請人会社東京管区本部及び前記三校に唯一存在する総評全国一般労働組合東京地方本部ECC教職員労働組合(昭和五二年二月二八日結成したもの、以下単に「組合」という。)に所属する組合員である。

(三)  昭和四九年八月一日より実施された被申請人会社就業規則(以下単に就業規則という。)四四条は「休日」に関して「休日は次のとおりとする。1日曜日2国民の祝祭日3年末年始(四日ないし一〇日間)4夏期休暇(総日数三日ないし五日)5その他会社が必要と認めた日但し4号は必ずしも連休方法で休日を与えるとは限らない。」と定めており、これにより被申請人会社においては従来、日曜日、国民の祝祭日(毎年一二月三〇日三一日を含む。)のほか、年末年始の八日、夏期四日、被申請人会社創立記念日(六月一日)及び夏期集中講座中三日の土曜日が休日とされ、申請人らは右各休日においては就労の義務がないものとされていた。

(四)  申請人らの所属する「組合」は結成後昭和五二年三月五日被申請人に対しいわゆる春闘要求をなしたが、このうち「休日」については週休二日制の実施を要求し、その交渉の結果、「組合」と被申請人間には同年四月一八日次のとおりの合意が成立した。

「週休二日制について

昭和五三年四年から週休二日制を実施する。

右週休制を実施するまでの暫定措置として、本覚書締結の日から昭和五三年三月末日に至るまでの間であって、昭和五二年四月、九月、昭和五三年三月および昭和五二年の夏期集中講座期間中を除く期間につき合計一八日の特別休暇を有給として設ける。この暫定的特別休暇は、全職員につき土曜日を休日とするものではなく、昭和五二年四月二〇日を目途に、各校段階において学監および学監補佐が前記期間の業務状況に照して各職員の希望を考慮して、右暫定的特別休暇予定表を作成のうえ、これに基づいて職員が右休暇をとるものとする。」

二  疎明と審尋の全趣旨によれば次の事実が一応認められる。

(一)  前記のとおり被申請人は外国語の会話教室などを経営していたが、その主たる業務活動となっている英会話学院普通科のコースは期間一年間とされ、生徒には学生が多く、大学などの夏期、冬期休み中は学院への出席率が低下するので学院においても各期の休暇を設けざるを得ず、営業政策上夏期に社会人などの層をねらって集中講座を開くなどしながらも被申請人会社の業務形態、活動は一般学校の経営に類似せざるを得ない面があり、従って申請人ら従業員の休日も学院生徒の休日に合せて設定されるのが通例とされていた。

(二)  被申請人経営の外語学院では例年夏期に普通コースを休講として、別に三週間の集中講座を設け、同期間中の土曜日三日は休講とすると共に申請人ら従業員についても休日とし、集中講座終了後に夏期の一斉休日八日間(日曜日、振替休日各二日間、就業規則四四条4号の夏期休暇四日間)を設けていた。また年末年始には生徒の出席率の低下により休暇を設けざるを得ないので一二月三〇日、三一日を同条2号の国民の祝祭日に準じた休日とするほか、同条3号の年末年始の休日も合せて毎年一二月二七日又は二八日から翌年一月四日又は五日までを休日としていた(なお一月一日は同条2号の国民祝祭日にあたる。)。

(三)  「組合」は昭和五二年度の春闘において従前の休日を前提として週休二日制の実施を要求し、被申請人もこれに応じて前記覚書の原案が作成されたが、当初同原案四項は週休二日制について「昭和五三年四月から週休二日制を実施する。」との部分に続いて「この週休二日制は、毎週土曜日と日曜日を休日とする方向で検討するが、業務の都合上、職員によっては毎週土曜日以外の平日一日と日曜日を休日とすることもある。」との被申請人が挿入した部分があった。しかし、被申請人は多数組合である総評大阪一般合同労働組合(以下単に大阪合労という。)との間でも併行して春闘要求につき団体交渉しており、同組合との間で妥結した週休二日制についての協約条項には右挿入該当部分がなかった。

そこで被申請人は「組合」との昭和五二年四月一八日の団体交渉において週休二日制の実施について「国民祝祭日などの休日が入れば週に三日を休みとする趣旨ではない。しかし週に二日は必ず休みとなる。」旨言明すると共に大阪合労と結んだ前記協定の統一を図るため「組合」に対して「右挿入部分を削除して欲しい。しかし、同部分を削除しても土、日曜を休日とする趣旨ではない。具体的な実施方法については更に検討することにしたい。」との申し入れをした。そこで「組合」は右申し入れを容れることとし、右挿入部分は削除されて週休二日制については前記一、(四)記載のとおりの条項とすることとなり、他の年次有給休暇等についての合意も合せて同日覚書として作成され、「組合」、被申請人各代表者が記名押印するに至った。

(四)  その後、昭和五三年三月に至り「組合」と被申請人間では前記覚書の週休二日制の具体的な実施方法をめぐって団体交渉が行なわれ、同月一七日、二二日の各交渉において被申請人は週五日労働制が四月から実施させる旨再三申請人らに対して言明していたが、一方大阪合労との間では同様に週休二日制の実施について団体交渉を行なっており、大阪合労に対しては、週休二日制度実施について大略1昭和五三年度は試行期間とし、昭和五四年一月以降については改めて協議する。2週休二日制度の実施は指定休日(学院が一斉に休日と定めた日で七月二二日、二九日、八月五日、一四ないし二一日、一二月二五ないし二九日合計一五日間)とフレックス休日(学院の業務は正常に行なわれるが各職員が八月に一日間五月、七月に各二日間、六月、一〇月、一一月、一二月に各三日間の合計一七日間の範囲内で取得する個人別休日で一二月までのものを四月三〇日までに学院が各人と協議、調整のうえ決定する。)の二本建で行なう3他に特別休日として六月一日、一二月三〇日、三一日を与える旨の協定案を提案して協議し、三月二四日妥結して協定書(以下指定休日、フレックス休日等を設ける方法をフレックス制度という。)をとりかわすに至った。そして被申請人は「組合」との同月二八日の団体交渉においては前言を覆えして前記覚書にいう週休二日制は年間の休日が平均して週二日になれば足りる趣旨であるとして、前記フレックス制度を「組合」に対しても提案し、昭和五三年四月一日以降同年末までの間祝祭日(六月一日、一二月三〇日、三一日を含む。)のある週を除く週の土曜日は三二日あり(三一日のところ一日を特に加える。)、これが本来新たに設定すべき休日数であるから更に前記指定休日一五日とフレックス休日一七日に分けて与えることにした旨説明した。これに対し「組合」は年間休日を平均して週二日の休日となっても前記覚書四項の週休二日制とは言い難く、全休日数も従来より若干増加するのみであることなどを理由として反対し、交渉は決裂した。

(五)  被申請人は新たに就業規則を改訂し、昭和五三年四月一七日東京管区事業所の従業員に対して新就業規則を実施したい旨の意向を示したが、同規則二一条は「休日」について「休日は次の通りとする。(1)日曜日(2)国民の祝祭日(3)学院が指定した日(4)その他学院が認めた日」となっており、同年四月以降被申請人は申請人ら及び非組合員に対しても事実上同規則により前記大阪合労との間で結んだ協定と同内容のフレックス制度による休日を指定して勤務表を作成し、業務活動を行なっている。

三  そこで右一、二の各事実をもとに休日についての申請人らと被申請人間の雇用契約内容について検討する。

(一)  前記覚書は「組合」と使用者である被申請人との間で休日等の労働条件に関し、書面に作成され、両当事者が記名押印したものであるから労働組合法一四条にいう労働協約であり、右協約内容は「組合」所属組合員である申請人らと被申請人間の雇用契約の内容となるに至ったということができる。

ところで一般に隔週週休二日制、月三回週休二日制、完全週休二日制などを総称して週休二日制といわれているが、とくに限定のない場合は完全週休二日制をいうと解されること、前記二、(四)のとおり被申請人も休日数自体については週二日の休日が確保された場合の休日数と同日数を前提にしてフレックス制度を提案していること、及び協約締結前の団体交渉及びその後の団体交渉において被申請人が週五日働けばよい趣旨であると言明していたことに照らせば、右覚書四項にいう週休二日制は文字通り限定のない完全週休二日制をさすといわねばならない(被申請人はこの点に関して年間休日が平均して週二日になる趣旨であったと主張するが、かく解すべき疎明はなく「週休二日制」の通例の用法に反して到底採用できないところである。)もっとも同項には週休二日制の具体的な実施方法については規定されておらず、前記二、(三)、(四)の覚書締結前後の団体交渉の経緯をみれば、実施方法の細目については労使間の協議により決定されることになっていたということができるが、同項は昭和五二年度については暫定的な特別休暇を設けて移行期間とし、「昭和五三年四月から週休二日制を実施する。」旨明定しているのであるからたんに週休二日制度実施について「組合」と協議し、決定するとの被申請人の方針、姿勢を示した、いわばプログラム的規定にとどまるものではなく、少なくとも使用者たる被申請人において同月以降「組合」所属組合員に対して週に二日の休日を設けて五日以上は就労させないとの義務を規定したものと解するのが相当である。

また同項は一見従来の就業規則による休日は廃止し、新たに週二日休日とする旨を定めたとも解されないではないが、前記一、(一)、二、(一)のとおり被申請人は英会話の教授を専門とする学校経営に類似した業務活動を行ない、学院生徒の休日にあわせて日曜日、国民の祝祭日、年末年始及び夏期休暇を従業員の休日(いずれも休暇ではなく休日と認める。)として設定せざるを得ない状況にあるのであり、「組合」及び被申請人はこれらの点を知悉しており、従って従来の休日を維持することを当然の前提として覚書を締結したということができる。(このことは前記二、(三)のとおり昭和五二年四月一八日の団体交渉において被申請人が日曜日のほか祝祭日のある週については週三日を休日とする趣旨ではない旨言明していたこと及び前記二、(四)、(五)のとおりその後被申請人が実施した新就業規則においても国民の祝祭日は休日とされ、フレックス制度においても夏期休暇、年末年始、創立記念日はいずれも指定休日、特定休日として維持されていることをみても明らかである。)。

以上のとおり覚書四項の趣旨、覚書締結に至るまでの経緯等を総合考慮すれば、覚書四項は従来の就業規則による休日を維持、前提としながら週二日の休日のない週については新たに日曜日のほか一日の休日を設けて少なくとも週二日の休日を保障する趣旨で結ばれたというべく、被申請人は申請人らとの雇用契約上、従来の休日を遵守し、また週二日の休日のない週については新たに一日の休日を設けて五日以上就労させてはならない義務を負うに至ったというべきである(申請人ら主張のように従来の就業規則の休日に加えて更に各週に一日の休日を設定すべき旨解することは右覚書締結の経緯と極めて多くの休日の設定により被申請人の業務活動を不能ならしめるおそれがあることに照して採用することができない。また週休二日制は土曜、日曜を休日とするのが一般であるが、勿論覚書四項から土曜日を休日としている旨特定することはできないし、前記二、(三)の被申請人挿入部分が削除された経緯によれば被申請人にとって土曜日等の一斉休日を前提とする週五日勤務制とするかは対大阪合労との関係もあり営業政策上も重要な問題であったことが窺われるから新たな休日の選択、設定方法等は使用者たる被申請人に任されているといえる。)。

(二)  そこで次に就業規則による休日についてみるに、日曜日、国民の祝祭日、及び同規則四四条5号により会社が指定した会社創立記念日(六月一日)はいずれも特定した休日として当事者間の雇用契約の内容となっていたことが明らかである。また前記一、(三)、二、(二)のとおり夏期休暇については夏期集中講座後の一週間が休暇とされ、内四日が就業規則四四条4号の夏期休暇として与えられることが事実上の制度として確立し、当事者間の雇用契約の内容となっていたということができるし(もっとも右四日の休暇は必ずしも連続して与えなければならないものではない。)、年末年始の休日についても就業規則上三ないし一〇日となっていたものの、一二月三〇、三一日は国民祝祭日に準じる休日とされ、右二日のほか国民祝祭日である一月一日を含めて例年一二月二七、二八日から一月四、五日までの間が年末年始の休日とされていたのであるから少なくとも一二月二八日から一月四日までの間は年末年始の休日として申請人らと被申請人間の雇用契約の内容となっていたということができる。

(三)  被申請人は大阪合労との間で結んだフレックス制度に関する協約に申請人らも拘束される旨主張するが、当初週休二日制の実施に関し、被申請人と「組合」及び大阪合労との間で結ばれた協約内容が殆んど同一であり、週休二日制の具体的実施方法としてその後多数組合である大阪合労がフレックス制度に合意し、協約締結に至ったとしても申請人らは別個に自主的な労働組合を結成し、その判断によって協約を締結し、また固有の協約を締結する権限を有しているのであるから多数組合たる大阪合労がなした独自の判断を少数組合員である申請人らに拡張適用することは許されないと解するのが相当である。

(四)  以上のとおりであるから被申請人は申請人らに対し、雇用契約上別紙(二)の「休日の定め一覧表」記載の各休日には就労させないとの義務を負っていたところ、更に右休日をもっても週二日の休日のない週については新たに一日の休日を設定して五日をこえて就労させてはならない義務を負うに至ったものであり、また前記のとおり新就業規則を前提として被申請人が設けた指定休日、特別休日はいずれも従来の就業規則による夏期休暇年末年始等とほぼ同一日であるが、新しい就業規則には日曜日と国民祝祭日のほかは休日数の定めがなく、被申請人が容易に変更し得るものであり、フレックス制度によっては週二日の休日が保障、設定されているとは言い難いからなお保全の必要性もあると認められる。

(五)  よって本件申請は主文第一項の限度で相当と認められるから保証を立てさせないでその限度で認容し、その余は理由(必要性も含む。)がなく保証をもってこれに代えることも相当でないから却下することとし、訴訟費用について民事訴訟法九二条但書、八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 牧弘二)

<以下省略>

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